胃がん、食道がん の生存率を高める病院
食道がんや胃がんでは、がんが粘膜の下の方まで進行していると、多くの場合、手術の適応になる。臓器の一部あるいは全部を切除し、がんの進行度合いによってはその周辺のリンパ節も取り除く。治療ガイドラインで定められている治療法で広く普及しているものの、新たな検査方法が確立されれば、どこまで切除すべきかが客観的かつ科学的に示され、より正確な治療法が確立されることになる。
そんな胃がんや食道がんが、最初に転移しやすいのはセンチネルリンパ節という部分。現在、先進医療として、「センチネルリンパ節生検」という検査方法が行われている。
がん病巣の近くに特殊な色素やラジオアイソトープを注入して、がんが最初にリンパ節に到達するセンチネルリンパ節を同定し、転移の有無を顕微鏡で調べる。この検査は、すでに乳がんやメラノーマ(皮膚がん)に対しては、広く行われている。それを食道がんや胃がんへ応用するために、世界に先駆けて1998年から研究を進めているのが慶應義塾大学病院 一般・消化器外科だ。
慶應義塾大学病院は 先進医療の検査はもちろんのこと、小さな傷口で手術を可能とした腹腔鏡を用いた低侵襲の治療でもパイオニアである。
「胃がんや食道がんに対して、センチネルリンパ節生検を行うと、取り残しや余分な組織の切除を省くことができるなど、さまざまなメリットがあります。ただし、その検査に基づく治療で、本当に従来の手術と同じ生存率を確保できるか。その見極めの研究を行っています」と副病院長と腫瘍センター長を兼務する同科の北川雄光教授(51)は言う。
北川教授は、胸腔鏡・腹腔鏡手術のスペシャリストだ。食道がんや胃がんでも、患者にメリットがあれば胸腔鏡・腹腔鏡による手術を積極的に行っている。また、胃の良性腫瘍の胃GISTや、機能障害の一種・食道アカラシア、逆流性食道炎の手術では、全国に先駆けてヘソのひとつの穴から行う「単孔式腹腔鏡下手術」を導入。熟練した技術とチームワークで、低侵襲で確実に治療できる最先端技術を研究している。
「胃がんや食道がんに単孔式腹腔鏡を応用するには、医療機器の進歩を待たなければなりません。また、将来的には、腹腔鏡下手術と内視鏡の治療を組み合わせることで、臓器の温存がこれまで以上に可能になると思います。しかし、それにもまだ数年かかるでしょう」(北川教授)
腹腔鏡下手術でセンチリンパ節生検を行い、転移が見られなければ、内視鏡による治療で臓器を温存する。それは、これまで内視鏡の治療では、再発するのではないかと考えられた症例に対して、手術によって胃を部分切除するだけでなく、胃を残すという選択肢も広がることになる。
「今後、医療機器などがさらに発達することで、治療方法や検査方法の選択肢は増えるでしょう。しかし、手術で治るがんは再発させてはいけません。それを追求するために取り組むべきことはまだ多い」と北川教授。確実に治るがんを増やすために、今も力を注ぎ続けている。
< 2011年の治療実績 >
☆胃がん治療総数379件
☆胃がん手術件数158件
(内腹腔鏡下手術82件)
☆食道がん治療総数182件
☆食道がん手術件数50件
☆センチネルリンパ節生検64件
☆病院病床数1059床
慶應義塾大学病院
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