既存の抗がん剤を保険承認時の適用外のがんに使う制度がいよいよ開始される見込みだ。
厚生労働省は2013年4月にも、保険診療との併用(事実上の混合診療)を広く認める方針。
現行の制度では、抗がん剤は、保険承認の際に治療対象となるがんが指定されており、保険適用外のがんに使うことは通常はできなかった。(全額自己負担なら可能だった)。抗がん剤は保険が適用できるがんの種類が決まっており、他のがんに使うと治療費が全額自己負担になってしまうのが原則=「混合診療の禁止」だった。しかし、保険適用の範囲を広げられることで、実用化が進んでいる肺がんの薬を卵巣がん治療に使うなど、がん治療の選択肢が保険診療内で広がる。
抗がん剤の保険適用拡大は、手順として2段階で進められる。
第一段階は、保険適用外の抗がん剤の使用を医療機関が国立がん研究センターに申請、審査される。「先進医療」として認定を受ければ、抗がん剤新薬として診察、検査など一般診療部分に保険が適用される。この段階では、抗がん剤新薬の薬代は、まだ保険対象ではない。しかし、「混合診療」が許されることだけでも大きい。 第二段階では、該当する抗がん剤の治療効果を確認されれば、厚労省による正式な薬事承認に先駆けて、抗がん剤新薬の薬剤費も含めて保険適用の対象費用とできる。
米国では、「コンペンディウム」と呼ばれている "承認"と"保険適用"を切り離した制度が参考にされている。
現行制度では、未承認薬をがん治療に用いると、薬代だけでなく、治療費全てが自己負担になるため、がん患者は、治療の断念か、多額の医療費を負担化の判断が強いられていた。
抗がん剤の多くは、資本力が大きく、巨額の開発費を投入できる欧米の製薬会社を中心に研究・開発が進んでいる。自然と開発対象は、欧米人に多い肺がんや大腸がん などのがんが中心となる。一方、日本人に多いのは、胃がんや卵巣がん で、さらには薬の実用化までの規制が強過ぎることから、抗がん剤新薬の応用研究が遅れているという実情があり、国内のがん患者団体が規制緩和を強く求めていた。
日本医師会には反対論・慎重論があるそうだが、がん患者達の永年の希望が達成される見込みは強くなった。
実は、厚労省が保険併用を広く認める背景には、国内の製薬会社の研究・開発を進める狙いがある。抗がん剤をはじめとする医薬品の輸入超過は年間1兆円を超え、貿易赤字の主因となってきており、国内で国内製薬会社による がん新薬の開発が急務となっているからだ。制度を改革し、抗がん剤新薬の研究開発を促すことで、日本をアジア向け抗がん剤新薬の研究・開発拠点に位置付け、医薬品輸出を拡大したい目論見なのだ。
背景はさておき、がん患者と家族にとっては、使える新薬が増え、治療費が抑制できる新制度は朗報と言える。
早期かつ確実な新制度の発足が望まれる。