2012年5月10日木曜日

抗がん剤の効果を高め、副作用を抑える新素材技術

抗がん剤などの薬物を内部に収めて投与すると、抗がん剤の放出持続時間を自在に制御し、薬剤の有効時間を数倍に延長できるカプセルが開発された。新開発のカプセルは、無機物のナノメートル厚のフレーク状物体「ナノシート」でできた伸縮自在のカプセルで、「フレークシェルカプセル」と呼ばれる。物質・材料研究機構(NIMS)が開発に成功した。

がん患者の病理部位だけに薬物を運ぶという仕組みは、ドラッグデリバリシステム(DDS)と呼ばれる。ドラッグデリバリシステム(DDS)では、マイクロメートルもしくはナノメートルサイズのカプセルなどの担体に薬物を封入することで、 がんなどの病理部位だけに薬物を確実に送り込むのだ。

従来の単純な薬物投与では、投与した薬物が体内の途上で吸収・分解されてしまうことが問題で、そのためにがん患部以外に分散してしまい副作用を引き起こしたり、肝心のがん患部への到達できる薬物量が少なかっのだ。

「フレークシェルカプセル」には従来より多くの抗がん剤をカプセル内に封入できると同時に、抗がん剤の放出速度を抑えることができる。従来のカプセルに比べて、抗がん剤放出持続時間が格段に長くなり、1つのフレークシェルカプセルで数日間、持続的に抗がん剤を投与することも可能となった。また、カプセルをあらかじめ適当なpH条件下で処理しておくと、薬物を通す孔の構造が変わり、薬物の放出持続時間や薬物の貯蔵量を微調整することも可能だ。

開発された無機物のフレークシェルカプセルでは、カプセルの大きさが簡単に調節可能であり、薬物を通過させる孔構造も簡単に変えられるという特徴を持つ。結果として、望みの量の薬剤を内部に封入し、かつ、それを望みの速度で持続的に放出することができる。 がんの状態に合わせ、量や持続時間を自在に調節できる優れた抗がん剤物運搬体になり得るというわけだ。

また、表面に特定のがん標的を認識できる抗体を結合させれば、特定の病的部位にのみ薬物を送り込む「がんミサイル療法」への応用も可能だ。

このように構造を自在に調節できるカプセルの開発・利用は、既存の抗がん剤によるがん治療にても飛躍的に効果を高められる可能性を秘めている。