がんを治療できるバクテリアが、2015年11月に米国シカゴ大学で発見された。
シカゴ大学で発見されたバクテリアは、マウスの胃腸に存在するバクテリアの一種で、「皮膚がん」に対して有効であるされた。これは免疫療法の一種として研究されており、バクテリアは皮膚がんの成長抑制に関しては従前の免疫療法と同レベルの効果が確認された。さらに、ビフィズス菌の投与とバクテリアによる免疫療法を併用した場合は、皮膚がんであるメラノーマの成長をほぼ止めらたのである。
他方、フランスでも、ある種のバクテリアには免疫応答療法を活性化させる効果があることが発表された。
これらは、「マイクロバイオーム」と呼ばれ、多くの製薬会社が一斉に注目する分野となったのだ。
一昔前までなら「消化器官内のバクテリアが免疫系で重要な役割を果たしている」などとは信じようのない暴論だったのだが、今では多くの免疫学者にとっての常識へと変わった。
バクテリアの免疫治療の研究は順調だが、まだ治療の効果が一時的であり、長期間でも持続した効果が得られることが目標となっている。そのため、製品化にはまだ5年以上が必要とも言われている。
しかし、バクテリアやマイクロバイオーム、免疫治療の相関に対する注目は高まっており、2015年1月には新薬を熱望するネスレが、バクテリアを利用した消化系に効果的な治療法を開発する企業へ6500万ドル(約74億円)を投資した。
by ZEISS Microscopy
2015年にはスタートアップのVedanta Biosciences社が、ジョンソン・エンド・ジョンソンと炎症性腸疾患に関するマイクロバイオーム薬のライセンス契約を結んだ。大手の製薬会社もバクテリアを利用したがん治療へ、大きな期待を持っているのだ。
2015年11月には、スタートアップの4D Pharma PLC社が乳がん・肺がんに有効なバクテリア薬での動物実験に成功した。4D Pharma PLC社では、人間への臨床試験を2016年から開始する見込みで、これによって、同社が集めた出資金は1億4000万ドル(約160億円)を超えたのだった。
フランスでは、ENTEROME社がバクテリアの分泌物を使った新しいがん治療法を開発中だ。こちらも大きな注目を集めたことから、2016年3月中に1500万ユーロ(約19億円)の融資が行われる予定なのだ。
「ある患者にとっては有効だが、別の患者には有害になる」という薬害問題が新薬には付いて回る。しかしも、人間のマイクロバイオームは多様であるため、免疫療法の効果は一卵性双生児に対してさえも差が生じることが知られている。
無数にあるバクテリアの中からがん治療に有効なものを特定することは困難であり、さらに効果が発揮されるに最適なバクテリアの量を特定することも容易ではない。今後の課題は多いものの、
将来的には、
酵母抽出の
ベータグルカンが普及したのと同様に、がんの予防や治療に効果のあるバクテリアを含む食品やサプリメントが発売される可能性は高い。
by University of Michigan School of Natural Resources & Environment